印象派の特徴「筆触分割」とは
クロード・モネ「エプト川のポプラ並木」 1891年
印象派とは、19世紀後半のフランスで巻き起こった芸術運動で、モネやルノワール、シスレーなどが中心メンバーとして挙げられます。
印象派の哲学には、世界をなるべくありのままに描写しよう、「印象」を描こうという姿勢が根底にあり、自然に忠実に光を捉えようと、印象派の画家たちが生み出した特徴的な絵画技法が「筆触分割」(また「色彩分割」「点描法」など)です。
この筆触分割とは、「太陽の光を構成するプリズムの7色を基本とし、しかもそれらをおたがいに混ぜないで使用するという技法(高階秀爾『近代絵画史〈上〉』より)」を指します。
絵の具の色というのは、混ぜれば混ぜるほど黒に近くなり、明るさが失われていきます。
しかし、戸外で描き、自然の光を忠実に捉えたかった印象派の画家たちは、混ぜると暗くなる絵の具を「混ぜない」ことで明るさを表現しようと考えます。
絵の具を混ぜないとすれば、一体どのようにして微妙な中間色(混合色)を表現したのでしょうか。
彼らは、混ぜ合わせる色を小さなタッチ(筆触)で並置する、という手法を採用します。
たとえば、紫を表現したい場合、パレットで赤と青を混ぜることで明るさが失われてしまうので、赤と青のタッチを原色のまま並べて置きます。
結果、絵から離れて見た際に、双方の色が一緒に眼に入り、明るさを保ったまま視覚的には混ざり合って紫として感知されます。
後にフェネオンやシニャックのような印象派の理論家たちが強調するように、混合はパレットの上ではなくて網膜の上で行われるのである。
自然を基本的な色に分解し、そのひとつひとつの要素をばらばらに並置して、全体としてまとまった効果をあげるというこの方法が、「筆触分割」にほかならない。
出典 : 高階秀爾『近代絵画史 上』
この網膜のなかで色と色とが結びつく効果を「視覚混合」と呼びます。
視覚混合という効果が筆触分割という手法の根底にあり、印象派の画家たちによって応用されます。
視覚混合
となりあわせに置かれた二つ以上の色彩が、遠くから見ると混じり合ってひとつの色に見える光学現象。色彩の鮮やかさを重視したクロード・モネをはじめとする印象主義の画家たちによって、絵画に応用された。
カンヴァス上に並置した鮮やかな色と色が、「眼のなかで溶けあう」ことで生まれる色は、パレット上で絵の具同士を混ぜ合わせてできる色より輝いて見える。
ここから、例えば灰色を塗りたいときでも鮮やかな黄緑と赤紫の小さな筆触を並置するという「筆触分割」の方法が生まれ、これはさらに、新印象主義の点描あるいは「分割主義」へとつながってゆく。
そのため、モネやシスレーのような印象派の画家たちの絵や、この理論をさらに科学的に突き詰めたシニャックなど新印象派の作品は、「少し離れて見る」ことでより美しさが引き立つと言われています。